ヒューマンファクターと安全
第二次世界大戦が終了してからの20世紀後半の50年間は、広範な科学技術の急速な革新と進歩が、 社会生活を大きく変え、利便性と豊かさを高めることが出来ました。
しかし、その反面、今まで見られなかった、莫大な損害や悲惨な犠牲者を伴う事故や災害が発生するようになりました。 これらの事故や災害の原因を追究してゆきますと、必ず人間要因、すなわちヒューマンファクターが関与していることが クローズアップされてきます。
科学技術を開発したのも、装置や機械を製作したのも、それを使用するのも、監督するのも、 それらのシステムを運用するのも、すべて「人間」そのものでしかありません。とすると、特異な未知の事象を除いて、 全ての事故、災害は人間が関与して発生しており、人間でしか防止できないと言えましょう。 ヒューマンファクターは次のように定義されております。
「機械やシステムを安全に、しかも有効に機能させるために必要とされる、人間の能力や限界、 特性などに関する知識の集合体である。」(黒田 勲)*1
とかくヒューマンファクターという言葉は、何か不具合が発生した時の原因のように「マイナス」のイメージを持って 使われていることが多いのですが、上記の定義のように、本来は「プラス」のイメージを持って使われるべきもので、 人間の歴史に見られる、素晴らしい創造性や知恵、器用な操作能力や芸術性、深い思考や思想などなど、 人間はそのもっている「プラスのヒューマンファクター」によって発展してきたのです。
ヒューマンファクターの特性は大変多様であり、複雑です。しかも時代や環境はもちろん、 集団、組織の雰囲気によっても変動してゆきます。 当研究所においては、主として安全に関わる 人間特性に焦点をあて、事故や災害の背後に潜在する広義のヒューマンファクター特性を追究するとともに、 「負のヒューマンファクター」を、いかに「プラスのヒューマンファクター」に転換出来るのかの対策を 調査研究しています。
日本ヒューマンファクター研究所
前所長 黒田 勲
*1 : 日本ヒューマンファクター研究所では、ヒューマンファクターを「機械やシステムを安全に、 しかも有効に機能させるために必要とされる、人間の能力や限界、特性などに関する実践的学問である。」と2009年に再定義しております。
医学博士 黒田 勲 略歴
| 昭和2年8月 | 北海道旭川市生まれ |
| 昭和26年 | 北海道大学医学部卒 |
| 昭和27年 | 北海道大学医学部助手 医師免許取得 |
| 昭和28年 | 国立公衆衛生院技官 |
| 昭和32年~昭和58年 | 航空自衛隊医官 |
| 昭和55年 | 航空医学実験隊 隊長 空将 |
| 昭和58年 | 航空自衛隊 退官 |
| 昭和58年~平成7年 | 日本航空(株) 特別講師 |
| 昭和59年~63年 | 慶応義塾大学講師 |
| 昭和63年~平成10年 | 早稲田大学人間科学部教授 |
| 平成10年11月 | 日本ヒューマンファクター研究所設立 所長 |
| 平成21年 2月 | 病により没 (81歳) |
委員、会員等
- 薬害等再発防止システムに関する研究会座長
- 運輸省航空事故調査委員会専門委員
- 厚生労働省医療安全対策検討会委員
- 日本航空機操縦士協会顧問
- 労働科学研究所理事
- 鉄道安全問題研究懇談会座長
- 日本航空協会評議員
- 日本宇宙航空環境医学会名誉会員
- 宇宙航空研究開発機構有人サポート委員会委員長
- 日本人間工学会名誉会員
- 米国航空宇宙医学会フェロー
- 航空運航システム研究会会長などの学会役員、等を歴任
受賞、勲章等
| 昭和56年5月 | 米国航空宇宙医学会 レイモンド・エフ・ロングエークル賞 |
| 平成4年9月 | 運輸大臣表彰 |
| 平成8年9月 | 日本航空協会 航空功績賞 |
| 平成9年11月 | 勲三等瑞宝章 |
| 平成14年9月 | 国土交通大臣 特別表彰 |
| 平成14年12月 | 安全工学協会 北川学術賞 |
| 平成16年11月 | 防衛庁長官 感謝状 |
| 平成20年9月 | 宇宙航空研究開発機構理事長 感謝状 |
| 平成21年2月 | 正四位 |
| 他 |
著書等
- 「飛行とからだ」
- 「飛行とこころ」
- 「翔んでる医学」
- 「宇宙医学」
- 「ヒューマン・ファクターを探る」
- 「ヒューマン'ファクター」
- 「信頼性ハンドブック」
- 「新安全工学便覧」
- 「新・産業安全ハンドブック」
- 「安全文化の創造へ」
- 「信じられないミスはなぜ起こる」
- 「失敗を生かす技術」、その他著作、論文等多数